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489. 多和田葉子 オレンジ園にて (フルーツ小説百選)

「オレンジ園にて」(1997)、連作短編集『きつね月』に所収。
作家のあとがきを信じるとすれば、この作品集に収められた短編はどれも、ものに憑かれた時の、または、ものに憑かれたような状態について書きたいと思った、というところから書きはじめられたものだという。
"普通の言葉ではなくて、月の光が汚水に溶け込んだような言葉の流れ。その流れに身をすりよせて、手探りで、きつね月の痕跡をなぞりながら" 書き続けていったのが、この作品群なのだという。

この色、どこかで見たことある、と思ったのは、十二月のある日、東南アジアから、ハンブルグにもどって、机、窓、そのすぐ前の遊歩道は、雪に軌道を修正されて、その向こうの花壇の、そのまた向こうのエルベ川の、向こう岸で、なかなか空けない冬の夜、船の汽笛に貫かれる灰色の午前に見た、廃品回収車、背中に三人の男たちを乗せている、かれらの制服は、タイの僧衣と同じ色をしていた。オレンジ、陰に置かれた言葉を目覚めさせる色。果物の皮、剥かれたくない皮、中味には光はふくまれていない、むかれないままがいい、おまえの皮には果物一個以上の値うちがあるのだから、むかれずにいればいい、それにくらべて中味は、ビタミンCと言う噂に包まれた酸っぱい後悔の念。オレンジの皮は、お経をあげる人の心の色をして、朝霧の中をやってくる、御布施を集めに。
(「オレンジ園にて」、冒頭)


同じ作家の「文字移植」という作品では、そこに登場する翻訳家の訳文がみごとな"逐語訳"になっているという、笑いきれないほどおそろしいギミックを提示してくれたのだが、『きつね月』に所収された作品群を読むと、なんだ、ここにも逐語訳風の言葉が並んでいる! 日本語のシンタクスをいっさい配慮せずに綴られたような物語がなんでこんなにおもしろいのか! 、とそんなふうに感じさせられてしまう。たった一冊の本を読むことが、こんなふうに驚くような体験をいっぱいにもたらせてくれることがある、ということに久しぶりに気づかされたのである。



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