499. シュトルム 広間にて (フルーツ小説百選)

theodor storm im saal


「広間にて」(1848)は、シュトルムの最も初期に書かれた短篇の一つ。
ドイツの田舎町の、ある家族の一日を描いたもの。
邦訳は、岩波文庫版の短編集『みずうみ』に所収。

女の子をのせたぶらんこは、きらきら陽に光りながら、あがったりさがったりする。明るい捲き毛がこめかみから離れてそよぐ。でも、その子には、どこまであがっても、もうこれでいいということがない! とうとうぶらんこが音を立てて、菩提樹の梢のなかへ飛びこんだものだから、小鳥が両側の果樹棚からぱっと飛び立って、そのはずみに、熟れきった杏が地面へころげ落ちたっけ。
『何だろう、あれは?』
と青年は言って、ぶらんこをとめた。
その問いがおかしくて、女の子は笑った。
『鳥のイリッチよ。いつもはあんなに臆病じゃないんだけど』
青年は女の子をぶらんこからおろし、それから二人は果樹棚の方へ歩いていった。そこの藪のなかに、暗黄色の実が落ちていた。
『君とお友だちのイリッチが、君にご馳走したんだよ!』と青年が言った。女の子はかぶりを振って、美しい杏の実を青年の手にのせ、低い声で言った。
『あなたにご馳走したのよ!』
(関泰祐訳)


シュトルムの短篇を読んだ後は、いつも言葉を失ってしまう。
こんなふうに美しい作品を読んだあとに、何か言うべきことがあるだろうか? という感じ。
美味しいフルーツを食べ終わったあとと同じである。小説の方は、口を拭う必要もない。



にほんブログ村 本ブログ 海外文学へ





関連記事
スポンサーサイト

⇒comment

Secret

被災地の学生を応援しよう!
プロフィール

jacksbeans

Author:jacksbeans
ようこそ!
記事のカテゴリ区分は、
①自転車、②図書室、③青、④メキシコ、⑤フルーツ、⑥階段、⑦画家、⑧スープ、⑨音楽、⑩綠、です



にほんブログ村 本ブログへ

ブログ村ランキング参加中、
クリックしていただけると幸いです。

カテゴリ
月別アーカイブ
04  12  09  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04 
検索フォーム
最新コメント
最新記事
PVアクセスランキング/海外文学
リンク