500. デュマ=フィス 椿姫 (フルーツ小説百選)

「椿姫」(1848)、
引用するのは、”私”が始めてマルグリットに紹介されて顔を合わす場面である。
友人は劇場の入り口のほうへ行きます。
「おい、そっちじゃないぜ。」
「ボンボンを買いに行くんだ。頼まれたんだよ。」
私たちはオペラ座の廊下にある菓子屋に入りました。
私はできるものならその店全部を買い切ってしまいたいと思いました。そして、袋に何を詰めさせたものかと思案していると、友人が注文しました。
「砂糖漬けの乾葡萄(ほしぶどう)を一斤。」
「それがお気に召すのかい。」
「ほかのボンボンは決して食べやしない。有名なものだよ。」
(中略)
桟敷へ入って行きますと、マルグリットは大声で笑っていました。
私は彼女に沈んでいてもらいたかったのです。
友人は私を紹介しました。マルグリットは私に軽く頭を下げると、
「ボンボンは?」
「ここにあるよ。」
ボンボンを受け取りながら彼女はじっと私の顔を見ました。私は眼を伏せてまっかになりました。
(吉村正一郎訳)
しかしどうしてこうもまあ恋した男っていうのは気弱なんだろうか。
ボンボンを齧りながらそんなことを考えた。
(heureux verger、完)


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