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819. マイケル・オンダーチェ 名もなき人たちのテーブル (画家小説百選)

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長い船旅で出会った少年たちの物語である。
と言っても、筏に乗ったハックのような冒険譚ではなく、ツバメ号とアマゾン号のような爽やかな友情の物語でもない。
スリランカからイギリスまでの21日間の出来事が、静かに淡々と語られていく。物語の合間には、大人になった彼らの話が挟み込まれている。その繰り返しのなかで、いつのまにか少年たちの人生をじっと見つめ続けてしまうことになる。物語がこころに沁みてくる。
船旅は、1954年の話。語り手の「僕」が、回想するのは、その10年後から30年後にかけての時代だろうか。

これまでずっと、僕はカシウスの役に立つようなことは何もしてやれないと自覚していた。そして長年のあいだ、彼に連絡を取ろうと本気で考えたことはなかった。僕たちの関係は、21日間の船旅のあいだに、ある意味で完結したのだ。彼のことをもっと知る必要は(少しばかりの好奇心を別として)感じなかった。カシウスの鋳型、少なくとも僕が見る限りはっきりしていた。彼が将来、誰にも借りを作らずひとりでやっていける人間になるということは、当時すでにわかっていた。(中略)
手にやけどを負った画家。彼はあれからどんな人生を送ってきたのだろう。十代の終わりの頃はきっと、誰にも頼れず、何も信じられなかったに違いない。おとなになって、自力で生きられるようになれば、そういう人間でいるのも簡単だろうが。でも、おそらくカシウスは、あの晩、船の上で、子ども時代の残りを失ってしまったのではないか。彼がいつまでもあの場にたたずんでいたことを思いだす。もう僕たちのそばには来ようとせず、紺色に輝く海をじっと見つめていた。
(田栗美奈子訳)


「名もなき人たちのテーブル」(2011)は、オンダーチェの七作目の小説。
11歳の頃、スリランカから単身で船に乗りイギリスに渡ったという作家自身の経験が下敷きになった物語であるらしい。しかし、この作品が自伝的小説であろうが、全くのフィクションだろうが、そんなこととは全く関係なく、これがとびきりすてきな青春小説であることは間違いないのである。




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