66.アール・ラヴレイス ドラゴンは踊れない

カリブ海出身の作家は何人もいるが、多くが欧米に活躍の場を求める例が多く、母国にとどまる例は少ないという。中で、ラヴレイスは、トリニダード・トバゴに住み続ける言わばネイティヴの作家である。彼の「ドラゴンは踊れない」(1979)は、まさにネイティヴの作家で有り続けることでしか書けないような作品であると思う。文中からスティールパンの音が鳴り響き、カーニバルの音楽が溢れだしてくるような。


パリアグの自転車はその日の間ずっと、地面に横たわっていた。割れたビンのかけらが上に飛び散り、紙切れやごみくずかヤードを吹く風にあおられて泥除けに貼りつき、車輪のスポークの間にはさまった。むき出しの赤土の上に転がっているその姿は、紙くずやガラスの破片に埋もれた廃棄物というよりは、一般公開のため花輪で囲まれた亡骸のようで、なんだかまるで生きているみたいだった。(中略)
翌日の朝パリアグはそいつを起こし、まだいくらか回転するほうの車輪を下にして立てると、なかば持ち上げるようにして、ヤードを出てアリス通りへ押し転がしていった、そいつととともに前へ進むパリアグの足取りの、哀悼の念と殉教者の決意のこもった重々しさは、傷ついた兵士にこそふさわしいものだった。(中略)怪我をした弟を両腕に抱えるようにしてパリアグは自転車を進めていった、この兄弟を痛めつけ片輪にしたまさにその連中の間を抜け、やつらの真ん中を通って。(中村 和恵訳)


この物語には魅力的な人物が何人も登場する。もちろん主人公は、ドラゴンことオルドリックという青年(遊び人、唯一カーニヴァルの日にドラゴンになり彼自身を表現する、そのために一年を過ごす男)なのであるが、その周りで生きるスラム街の住人たちが、男も女もすこぶる魅力的で、まるでとびきりの群像劇を見た気分になってしまうのである。

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お久しぶりです。
すばらしく読みやすい訳文ですよね。
引用されている箇所を読んだだけで、再読したくなりました。

開設当初から更新頻度がまったく衰えてらっしゃらないのを、
ひっそり尊敬しております。

おはようございます

この本は、ninaさんに教えていただいたものでした。たしかに自転車が大事なエピソードになっていました。
でも、そんなことよりも、小説自体がすばらしくて、ラヴレイスも、カリブ海系の作家も、もうすこし読んでみたくなりました。
どうもありがとう。



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