865. スティーヴン・ミルハウザー 展覧会のカタログ (画家小説百選)


Little Kingdoms

ミルハウザーの「展覧会のカタログ  エドマンド・ムーラッシュ(1810-46)の芸術」は、作品集『Little Kingdoms(1993;邦題、三つの小さな王国)』に所収の中篇小説である。
タイトルが示すように、これは、"架空の画家の架空の展覧会のカタログ"という不思議な形式で書かれた小説である。ムーラッシュの絵画26点を年代順に並べ、カタログには付き物のタイトル、製作年、画材、サイズなどの情報を書き添えている。また、絵の特徴と技法について細かく解説し、さらに絵が描かれた当時の画家(及び妹や友人たち)の生活や奇妙な生涯のエピソードについても語られる。・・・つまり、これは、"展覧会のカタログ"のパロディであり、"芸術家小説"のパロディという体裁を取った作品なのである。

夢見るエリザベス(1836年)
カンバスに油彩、67.3×91.4cm

この初期傑作は、ニューヨークの国立美術院、ボストン芸術振興会から却下され、結局フィラデルフィアのペンシルヴェニア芸術院に展示された。展示は数人の批評家の関心を惹くことになったが、彼らが示した反応は、道徳的憤りに彩られた嘲笑といったところであった。制作は春に開始されたが、『霧の風景』に取りかかったため中断し、八月末に再開されて、十一月なかばに完成するまで続けられた。寒さの訪れで、納屋から母屋に移ることを余儀なくされたムーラッシュは、エリザベスの助けを借りて二階の居間をアトリエに改造し、居間にあった家具の大半を台所に移動した。母屋の一階は広々とした台所と、エリザベスの寝室の二部屋に分かれ、裏手には小部屋がついていて洗濯場に使っていた。二階は前面に広い部屋が一つ(ムーラッシュのアトリエ、元来は居間)、奥にも二部屋あって、一つはムーラッシュの寝室に、もう一つは物置兼客用寝室に使われた。1836年における頻繁な訪問者であったウィリアム・ピニーが残した、模様替え成った山荘の様子を生き生きと伝える文章によれば(1836年9月8日、妹宛の書簡)、客をもてなす部屋でもあった台所には、肘掛け椅子、書き物机、真ん中の凹みかけたソファが置かれ、片隅の古い撹乳器にはカンバスの山が立てかけられていたという。
(柴田元幸訳)


これは、"展覧会のカタログ"のパロディであり、"芸術家小説"のパロディという体裁を取った作品なのである。そして、その形式のなかで、作家は、登場する人物たち(画家とその妹、友人の兄妹など)の奇怪な人間関係を浮かび上がらせようとする。
・・・ああ、これがこの小説の本題なのだなぁ、と油断したとたんに、この画家と妹の物語が、ポーの『アッシャー家』のバロディになっていることにも気が付いたりするので、注意が必要である。ああ、ややっこしい。小説の愉しさを味わうためには相応の労苦が必要という好事例か、などと思ったり思わなかったりする。

以上、報告します。




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