69.V・S・ナイポール 神秘な指圧師

「神秘な指圧師」(1957)は、ナイポールのデビュー長編。
出身地のトリニダード島を舞台に、指圧師ガネーシュという奇妙な人物を通して、胡散臭さく滑稽で愛すべき植民地社会の姿を描く。「少しばかり自叙伝的でもある」という作家の言葉が付されている。

一カ月とたたないうちに、やってくる患者の数はガネーシュの手にあまるようになった。
はなはだ意外だったのは、精神上の問題をかかえた人間がトリニダードにこれほどたくさんいるという事実だが、もっと彼がびっくりしたのは、自分自身の神通力の適用範囲の広さだった。(中略)
巨大な資産の大半を彼はこのようにして獲得した。しかし、彼がほんとうに好んだのは、自分の知力、精神力のすべてを必要とする症例だった。たとえばあの「ものが食べられない女」。この女は、食物が口に入るとすべて針に変わると感じ、じじつ口から出血する。彼は彼女を全治させた。それにあの「恋愛ボーイ」。恋愛ボーイはトリニダードきっての有名人で、たくさんの競走馬や競争鳩に彼の名前がついている。しかし彼の友人や身内にとってはまことに迷惑な男だった。有名な競輪選手なのに、自分の自転車に恋愛して、人前でその自転車と奇妙な愛の行為をする。ガネーシュはこれも全治させた。(永川玲二/大工原彌太郎訳)


ただただこの胡散臭さと滑稽さを笑っていればいいようなものだが。実はナイポールの作品の見事さの一つは、「植民地英語」を鮮やかに使っていることにあるらしい。
…登場人物が語るのはとても英語とは言えないしろもの。文章には、疑似スペリングが混じる。しかし同時にそれらは英語以外のなにものでもない言葉である。つまり、そんなスリリングな語法と技術を駆使した作品でもあるのだという。ともかく、翻訳家さんたちに感謝。






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シュールですねえ

ナイポールの作品も読んだことがなかったので、その作風を初めて知ることができました。

驚いたのは、「競輪」です。
競輪は、英語でも、keirinで、日本初の自転車によるトラック競技のこと。
オリンピック競技となったのも、つい最近のことです。
この作品が書かれた年代を考えれば、トリニダードで競輪が行われていたとは考えにくいので、もしかしたら、「ロードレース」かもしれませんね。

それにしても、「人前でその自転車と奇妙な愛の行為をする」というのはシュールです。

おはようございます

そういえば日本には競輪小説、競馬小説ってのがありますよね。
虫明さんとか、阿佐田哲也さんのは、また読んでみたいなと思ってるんです。


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