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866. マルセル・プルースト 失われた時を求めて (画家小説百選)

Paul-César Helleu, Marcel Proust sur son lit de mort


「失われた時を求めて」(1913-27)は、なによりもまず芸術家小説である。
記憶や時間をめぐる物語であることはもちろんだが、それよりもまず、これは芸術家小説であると書いておかねばならない。・・・作中の「私」は、長い長い物語の結末に、ようやく彼自身の小説を書き始めることを決意する。最後まで読んでようやく、これがプルースト版の"若き芸術家の肖像"であったのだとわかるのである。

私が書かなければならないのは、別なもの、もっと長いものであり、多くの人に向けられたものだった。それを書くのは長い時間のかかる仕事である。それでも昼間は、せいぜい眠ろうとつとめることができるだろう。仕事をするとしても、夜だけということになろう。けれども、それには多くの夜が、ことによると百夜ないしは千夜が必要だろう。私の運命を司る<主人>は、シャハリヤール王ほど寛大でなく、朝になって私が話を中断すると、はたして死刑の宣告を延期して翌晩その話のつづきをするのを許してくれるかどうか分からないので、わたしは不安にかられながら生きてゆくことになるだろう。私はいささかも、『千一夜物語』を作り直そうなどと言うつもりはないし、これまた夜書かれたサン=シモンの『回想録』をふたたび書くつもりもない。子供心の無邪気さで愛した本、それらと異なった作品を想像するとたちまちぞっとしてしまうので、まるでいくつもの恋に執着したように闇雲に信じ切って執着した本、そのような本のどれ一つとして、私はあらためて作る気になれなかった。けれども、エルスチールとシャルダンのように、人は愛するものを否認してこそ、はじめてそれをふたたび作りだすことができる。おそらく私の書く本もまた、私の生身の肉体と同様に、いつかは死ぬことになるだろう。けれども死んでゆくのはやむをえないことと認めなければならない。十年後には自分自身がいなくなるだろう。百年後にはもはや自分の本もなくなるだろう、という考えを人は受け入れる。永遠の持続は、作品にも人間にも約束されていないのだ。
(第七篇「見出された時Ⅱ」、鈴木道彦訳)


「失われた時を求めて」には、さまざまな画家と絵画が登場する。中でも、モネ、エル・グレコ、カルパッチォ、モロー、ジョット、フェルメール等の作品は、単なる物語のなかの小道具として使われるのではなく、作品構成上、重要な役割を果たしている。しかし、それだけで、これを"画家小説"に組み入れてしまうつもりはない。

もっと重要なのは、この小説の登場人物に、エルスチールという画家がいることである。実在の画家ではなく、物語上の人物である。作品上のキーパーソンの一人である。物語の表側では、芸術家として「私」を啓蒙し、もう一つの側では、「私」の分身的な存在として芸術に対峙していく。「失われた時を求めて」を"画家小説"集に加えることができるとすれば、このエルスチールの存在が大きな根拠になる、そう思うのである。


PS. エルスチールのモデルになった画家としては、モネ、ターナー、ポール・セザール・エリューなどの名前が上げられてきているらしい。エリューは、上の画像、『死の床につくプルースト』(1922)という肖像画を描いたことでも知られている。


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