867. エルヴェ・ギベール 赤い帽子の男 (画家小説百選)

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"画家小説"をどんなふうに定義したとしても、(画家が重要な役どころで登場する、画家の肖像を描く、画家を観察する、画家論が展開される、画家に対する恋慕や罵倒を綴る等々)、そのあらゆる要素をこの小説は充たしてくれる。ギベールの死後発表された「赤い帽子の男」(1992)は、そんな作品であると思う。
そんな稀有な作品であって、且つ、小説を読むことの醍醐味を存分に味あわせてもくれるのだから、他になにを言うことがあるだろうか。読者としては、惜しむこころを抑えながらきちんとページを閉じて、さっと本棚の隅に本をかたずけるのみである。あとは、まあ一杯やるくらいはいいだろうか。

 画家のヤニスと落ち合うべくコルフ島へ発ったとき、カプセルにした鎮痛用の阿片がポケットいっぱいに詰まっていたのは、局所麻酔で喉を切開、縫合したあとだったからで、なぜ局所麻酔かといえば、全身麻酔にした場合、アドレナリンでむくんだその時のぼくの状態では呼吸困難になる恐れがあったからなのだが、左顎の下にひと月半前から膨らみだし、あっというまに被嚢化した小さな結節腫を、分析に出すため外科医は削除してしまったのである。(中略)
そもそもの問題は、マドリッドまで出向かなければならない画家のヤニスに、ぼくが同行するということだった。ヤニスはこの街で自分の絵の贋作を一枚告発し、破毀させる手筈になっていたのだ。その贋作は、鴈作者当人か隠匿者の手で、マドリッドで最も名の知れた画廊のひとつに売却されたものだったが、ひょんなことからヤニスの目に留まってしまったのである。
(「赤い帽子の男」、冒頭、堀江敏幸訳)


こんなふうに、ミステリ仕立てのような調子で物語は始まり、そしてさまざまな画家や絵や街をめぐりながら、結末部まで続いていく。途中、バルテュスが登場するところで爆笑させられたり、小説の原稿を紛失する場面では心配させられたりしながら、物語は結末を迎える。いや、ほんとうにこの本は、きちんと結末まで綴られたのだろうか?



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