881. 宮沢賢治 かしはばやしの夜 (画家小説百選)

注文の多い料理店


「かしはばやしの夜(よ)」は、短編集『注文の多い料理店』(1924)に所収の一篇。
賢治自身が書いた紹介文によれば、この作品は、こういうはなしだという。
   桃色の大きな月はだん/\小さく青じろくなり、かしははみんなざわざわ言ひ、画描きは自分の靴の中に鉛筆を削つて変なメタルの歌をうたふ、たのしい「夏の踊りの第三夜」です。

清作は、さあ日暮れだぞ、日暮れだぞと云ひながら、稗の根もとにせつせと土をかけてゐました。
 そのときはもう、銅(あかがね)づくりのお日さまが、南の山裾の群青いろをしたとこに落ちて、野はらはへんにさびしくなり、白樺の幹などもなにか粉を噴いてゐるやうでした。
 いきなり、向ふの柏(かしは)ばやしの方から、まるで調子はづれの途方もない変な声で、
「欝金(うこん)しやつぽのカンカラカンのカアン。」とどなるのがきこえました。
 清作はびつくりして顔いろを変へ、鍬をなげすてて、足音をたてないやうに、そつとそつちへ走つて行きました。
 ちやうどかしはばやしの前まで来たとき、清作はふいに、うしろからえり首をつかまれました。
 びつくりして振りむいてみますと、赤いトルコ帽をかぶり、鼠いろのへんなだぶだぶの着ものを着て、靴をはいた無暗にせいの高い眼のするどい画(ゑ)かきが、ぷんぷん怒つて立つてゐました。


日暮れどき、である。へんにさびしいのである。男が、かしはばやしの方から出てくるのである。変な声でどなっているのである。それで、びっくりするのはよい。あたりまえの反応である。しかしその後がいけない。どうして、そっちへ走っていくのか。ほんとうなら逃げるところだぜ。なのに行くものだから、奇妙な男に出会ってしまう。自業自得だぜい。そんなことを言ったって足が動いてしまったから仕方がない。でもそのおかげで、おかげでとんでもないものを見ることができたんだ。柏(かしは)の木大王のお客さまになったんだぜ。夏のをどりの第三夜だぞ。みんなが歌いだすんだよ。お酒もあるし賞品のメタルもある。ゆかいゆかい。木も鳥たちも踊る。ゆかいゆかい。お月さまもたのしかったかな。あれ、いつのまにか絵描きの男がいなくなっていました。



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