892. マルセル・シュオブ リリス (画家小説百選)

ロセッティ、レディ・リリス、1867,MET
(Dante Gabriel Rossetti, 「Lady Lilith」, 1867:The Metropolitan Museum of Art)


シュオブの短篇 「リリス」、作家が二十四歳で書いた最初の作品集 『二重の心』 (1891) に所収。
幻想小説というよりは、美しい散文詩のような作品である。
ただし、作品には "恐怖と憐憫" が重要だとした作家のこと、美しいだけで終わるはずもないということは書いておくべきか。さらに、作中のエピソードをして"ネクロフィリア"を思わせると評した文学者がいたことも書き添えておいたほうがよいだろうか。

  ・・彼はリリスを愛した。これはアダムの最初の妻で、男から造られた女ではなかった。エヴァのように赤い土ではなく、非人間的な物質でこしらえられていた。蛇に似ていて、他のものたちを誘惑するようにと蛇を誘惑したのは実はこの女なのである。彼には、彼女こそ何者にもまさる真の女、最初の女であると思われた。そこでこの世で最後に愛し、結婚したこの北国の娘に、リリスという名を与えた。
  とはいえこれは芸術家の純粋な気紛れにすぎなかった。彼女は彼がカンバスに甦らせたラファエル前派のあの画像に似ていたのである。空いろの眼をして、長い金髪は、神々に捧げて以来天空に広がったペレニケの髪のように輝いていた。その声は今にもこわれそうな物の立てるやさしい響きを帯び、そのしぐさは嘴で羽を整える鳥のようにものやわらかであった。この現し世とは異る世界に属しているという雰囲気がしばしば感じられたので、彼はこの女を幻とみなしていた。
(多田智満子訳)


この作品は、詩人であり画家でもあったロセッティと彼の早世した妻のエリザベスをモデルにしたと言われている。しかし、物語のなかの女性は、実在のエリザベスというよりも、ロセッティの描いた"レディ・リリス"をそのままモデルにしたかのような雰囲気で描かれている。
    この絵を見ると、思わず、"物語の主人公は画家ではなくこちらか" と、呟きたくなるような魅力を秘めている。『宿命の女』がここにもいると、恐る恐るつぶやいてみたりする。


P.S. ロセッティの「レディ・リリス」には、同名の作品が幾つかある。
ここでは、メトロポリタン美術館所蔵の作品を引用した。
この絵は助手の Henry Treffry Dunnが描き、ロセッティが仕上げをしたと伝えられているようだ。METの展示にも、それらしき表示がなされていた。WIKIPEDIAで引用されているデラウェア美術館蔵の絵と比べると、リリスの表情が大きく異なるのが面白い。




にほんブログ村 本ブログへ

ブログ村ランキング参加中、
クリックしていただけると幸いです










関連記事
スポンサーサイト

⇒comment

Secret

No title

はじめまして
ブログ村トーナメントから来ました。

優雅でロマンティックなお話を紹介してくださって、ありがとうございます。
ラファエル前派は、新しい画家であった印象派などとは、
対立する存在だったか知りませんが、むしろ好きです。
しかし模写するのは、時間がかかりそうなので、やってませんけど。(笑)

トーナメント決勝戦、ご健闘を、お祈りいたします!

こんにちは

はじめまして

コメント、ありがとうございました。

モネさんのブログの記事も読ませていただきました。
御自身でも絵を描かれるのですね。
うらやましい限りです。
わたしも、「レディ リリス」のような絵を描いてみたいものです^^




被災地の学生を応援しよう!
プロフィール

jacksbeans

Author:jacksbeans
ようこそ!
記事のカテゴリ区分は、
①自転車、②図書室、③青、④メキシコ、⑤フルーツ、⑥階段、⑦画家、⑧スープ、⑨音楽、⑩綠、です



にほんブログ村 本ブログへ

ブログ村ランキング参加中、
クリックしていただけると幸いです。

カテゴリ
月別アーカイブ
04  12  09  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04 
検索フォーム
最新コメント
最新記事
PVアクセスランキング/海外文学
リンク