895. ジョナサン・キャロル 細部の悲しさ (画家小説百選)

The Panic Hand Jonathan Carroll


ジョナサン・キャロルの「細部の悲しさ」(1989)、
邦訳は創元社版の短編集『パニックの手』に所収。
原著の『The Panic Hand 』(1996)は、キャロル初の短編集であった。
だからどうだというわけではないし、あらためて言うまでもないのだが・・・、
キャロルは短編もいいのである。

<木曜日>は写真の山を、トランプを切るようにとりまとめた。「うちへ帰って、あの絵を探すんだね」

  昔は結構、上手だった。れっきとした奨学金をもらって美術学校に進学し、何人かの先生に、本物の画家になる素質があると言われた。でも、それを聞いてどう反応したかわかる? 怯えてしまった。あたしが絵を描いたのは好きだったから。人があたしの作品を、頬骨に手を当ててじっくり見るようになると、逃げ出して結婚した。(中略)
  ほんとについ最近、子供たちが自分でおやつを用意できる歳になったので、値段の張るイギリス製の油絵具とキャンバスを二枚、買いこんできた。けどそれすら持ち出すのが恥ずかしいくらいなもので、この何年か、あたしの描いてきた絵といったら、子供のためのふざけたスケッチか、親しい友達への手紙の末尾に殴り描きしたようなものだけ。(中略)

  欲しいという絵は見つからなかった。どこもかしこも捜してみた。屑籠、抽斗、子供たちの昔の宿題。必要なものが見つからない時、パニックというのはなんて無慈悲に募っていくことか!
(浅羽莢子訳)


キャロルは長編の作家だと思う。しかしこの短編集は読んでいて飽きない。飽きないどころか、何度も驚いたり打ちのめされたり頭をひねらされたりする。では、長編と同じじゃないかということになるが、それは違うのだ。短編独自の趣があり、短編独自の愉しみ方ができる。(短い作品を1分で読み終えて、そこからあふれてくる世界に60分も翻弄される) 例えば、この「細部の悲しさ (The Sadness of Detail) 」という短編だ。わけがわからないタイトルだが、読み終わるともっと頭をひねることになる。わけがわからない方がよい世界もあるのである。


PS. しかし、この原著のジャケットのデザインはひどいね。
これではスティーヴン・キングの本と間違われないか。



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